はじめに
プロップファームをEAで攻略しようとすると、「もっとEAを改善すれば合格率が上がるはず」と考えがちです。しかし、EA開発を続けていると、ある時点から何をやっても成績が改善しなくなります。
自分のケースでは以下の規模の検証を行いました。
| 検証内容 | 規模 |
|---|---|
| 微調整パラメータ | 741パターン |
| 新戦略の開発・テスト | 35以上 |
| グリッドサーチ | 1,621バリアント |
| 対象通貨ペア | 5種類以上 |
結果、 現在の設定がパレート最適 (ある指標を改善すると別の指標が悪化する状態)であることが確認されました。
これが「最適化の天井」です。
天井に到達したサイン
1. トレードオフが発生する
「合格率を上げるとDDが増える」「DDを減らすと完了日数が伸びる」のように、改善したい指標が互いに競合し始めます。
全指標を同時に改善する変更が見つからなくなったら、天井に近いサインです。
2. 改善幅が統計誤差の範囲内
3万回のMCシミュレーションでは、標準誤差が約0.3ptあります。+0.8ptの改善が見つかっても、統計的ノイズの可能性が排除できません。
「改善が見つかった」と「改善が本物」は別の話 です。
3. 新戦略が全滅する
35以上の新戦略を開発・テストしましたが、WFA+MCを通過したものはゼロでした。
特に印象的だったのは、あるペアで20以上の戦略×1,272パラメータ組み合わせ(計25,000以上のバックテスト)を実行して 100%不合格 だったケースです。
天井の数学的構造
速度(完了日数)と安全性(DD)のトレードオフには、明確な数学的関係があります。
中央値完了日数 ≒ -39.5 × ln(DD%) + 241
この式からわかること:
- DD 10%以下では、 1ptのDD改善に指数関数的なコスト がかかる
- DD 5%→4%の改善と、DD 10%→5%の改善は、同じ1ptでも難易度が全く異なる
- ある水準を超えると「もう少し安全に」は事実上不可能
天井に到達したらどうするか
やるべきこと:水平展開
パラメータ最適化(垂直改善)ではなく、 アカウント数の増加(水平展開) が効果的です。
| アプローチ | 期待改善 | コスト |
|---|---|---|
| パラメータ微調整 | +0.3〜0.8pt(統計ノイズ範囲) | 時間大 |
| 新戦略開発 | 0pt(35戦略全滅実績) | 時間大 |
| アカウント追加 | 期待パス数が比例増加 | 資金のみ |
アカウントを1つ追加するコストは1ヶ月で回収できる計算になりますが、パラメータ微調整に費やした数週間は何も生みませんでした。
やるべきこと:時間分散
同じEAの複数アカウントを 1〜2ヶ月ずらして開始 します。
同時開始のアカウント間相関は約0.70ですが、ずらすと0.30まで低下。3アカウント同時失格の確率が3.8%→1.5%に半減します。
やってはいけないこと:微調整の繰り返し
天井に到達した後の微調整は、 改善ではなく過適合 です。
統計誤差の範囲内の「改善」に飛びつくと、実運用では効果がなく、むしろ過去データへの適合度だけが上がります。
スプレッドという見えないリスク
最適化の天井に到達すると、パフォーマンスの最大のリスク要因は 戦略ではなくスプレッド になります。
検証の結果、スプレッドが1pip増えるごとに合格率が 約7.7pt低下 することがわかりました。
| スプレッド | 合格率への影響 |
|---|---|
| 0.5pip | 基準値 |
| 1.5pip | -7.7pt |
| 2.5pip | -15.4pt |
| 4.0pip以上 | 戦略が成立しない |
つまり、ブローカーのスプレッド条件が変わるだけで、どんなに最適化したEAでも破綻する可能性があります。
スプレッド管理はEA開発と同じくらい重要 です。
最適化のROIを考える
最適化にも「投資対効果」があります。
| フェーズ | ROI |
|---|---|
| 初期開発(戦略設計・WFA) | 非常に高い |
| リスク配分調整 | 高い |
| フィルター検証 | 中〜低 |
| 微調整(741パターン) | ほぼゼロ |
| 新通貨ペア展開 | 低い(100%失敗実績) |
最適化の初期段階はROIが高いですが、 ある時点を超えると時間の無駄 になります。
その時間をアカウント運用管理やリスクモニタリングに使う方が、トータルリターンは高くなります。
おわりに
プロップファームをEAで攻略する過程で、「EA開発」から「アカウント運用」にフェーズが切り替わる瞬間があります。それが最適化の天井です。天井に到達したら、EAの改善に時間を使うのをやめ、アカウント戦略に集中する方が収益は伸びます。
- 741パターンの微調整、35以上の新戦略開発でも改善ゼロ — 天井は実在する
- トレードオフの発生、統計誤差内の改善、新戦略全滅が 天井のサイン
- 天井到達後は 水平展開(アカウント追加)と時間分散 が正解
- スプレッド1pip = 合格率7.7pt — 戦略よりも執行環境が重要になる
- 最適化のROIは逓減する — やめどきを見極めることも技術
EAを磨き続けることと、プロップファームで稼ぐことは、ある時点から別のゲームになります。