はじめに
プロップファームをEAで攻略するには、「このEAでチャレンジに何%の確率で合格できるか」を事前に知る必要があります。WFAでEAの実力を証明した後、次に必要なのが合格率の予測です。
モンテカルロシミュレーション(MC)は、同じ統計的特性(勝率・リスクリワード比・トレード頻度)を持つランダムなトレード系列を 数万回生成 し、結果の分布を調べる手法です。
バックテストは「過去の特定の順序」で起きた結果にすぎません。MCを使えば「この性能のEAが、あらゆる順序のトレードに遭遇したとき、どれくらいの確率で合格するか」がわかります。
なぜMCが必要なのか
バックテスト1回の結果は、たまたま運が良かった(悪かった)可能性があります。
例えば同じ勝率43%・リスクリワード1.7のEAでも、
- 運良く序盤に連勝すれば余裕で合格
- 運悪く序盤に連敗すればDD制限に引っかかって失格
MCはこの「運のブレ」を定量化します。
MCで使う3つの入力値
1. 期待値(EV)
1トレードあたりの期待利益をリスク額(R)で表します。
EV = (勝率 × 平均利益R) - (敗率 × 平均損失R)
例:勝率43%、平均利益1.7R、平均損失1.0Rの場合
EV = (0.43 × 1.7) - (0.57 × 1.0) = 0.731 - 0.57 = +0.161R
1トレードで平均リスク額の16.1%が期待利益です。
2. トレード頻度
EVが高くても頻度が低ければ、目標達成まで時間がかかります。
日次EV = EV × 1日あたりのトレード数
| 戦略 | EV/トレード | 頻度/日 | 日次EV |
|---|---|---|---|
| A | +0.166R | 0.7回 | +0.116R |
| B | +0.122R | 2.1回 | +0.257R |
戦略Bの方がEVは低いですが、頻度が高いため 日次EVは2.2倍 です。プロップファームでは「1日にどれだけ稼げるか」が合格速度を決めます。
3. リスク率(1トレードあたりの口座比率)
リスク率が高いほど速く稼げますが、DD制限に引っかかるリスクも上がります。
MCシミュレーションの実行方法
Python等で以下のループを3万回実行します。
1回のシミュレーション:
口座残高 = 初期資金
for 日数 in 200日:
その日のトレード数をランダム生成(ポアソン分布)
各トレードで勝敗をランダム判定(勝率に基づく)
損益を口座に反映
if 日次損失 > 5%: 失格(デイリーDD違反)
if 累計損失 > 10%: 失格(最大DD違反)
if 利益 > 目標: 合格
3万回の結果から合格率・失格率・中央値完了日数を算出します。
MCで見えた重要な発見
勝率よりEVが重要
| 設定 | 勝率 | RR | 合格率 |
|---|---|---|---|
| 高勝率型 | 73% | 0.37 | 35.5% |
| 低勝率型 | 43% | 1.70 | 90.2% |
勝率73%でも、リスクリワードが低いとEVが不足し合格率は35%止まり。 勝率ではなくEVで判断すべき です。
標準MCの「楽観バイアス」に注意
標準的なMCには「各トレードの勝ち負けは完全にランダムで、前のトレード結果に影響されない」という前提があります。統計学ではこれをi.i.d.(独立同分布)と呼びます。
コイン投げのイメージ です。表が3回続いても、次に表が出る確率は変わらず50%。
しかし実際の相場では、 勝ちや負けが固まりやすい 傾向があります。トレンド相場では連勝し、レンジ相場では連敗する — トレードの結果は前後で影響し合います。
この「固まり」を無視すると、MCは合格率を甘く見積もります。
ブロックブートストラップで補正する
「固まり」を考慮する方法が ブロックブートストラップ です。
標準MC: ○×○○×○×× → バラバラに並べ替え
ブロックBS: [○×○][○×○][××] → 10トレードの塊ごと並べ替え
塊ごと並べ替えることで、連勝・連敗のパターンが保存されます。
| 手法 | 推定合格率 | 特徴 |
|---|---|---|
| 標準MC | 90.5% | 楽観的(固まりを無視) |
| ブロックブートストラップ | 87〜88% | 現実的(固まりを反映) |
差は3〜20pt になることもあります。MCの結果は「最大でこれくらい」と捉え、 実際は数pt低い と見積もるのが安全です。
リスク率の最適解
リスク率を上げると速く稼げますが、DD失格リスクも上がります。
実際に検証した結果、速度と安全性のトレードオフには明確な関係式がありました。
中央値完了日数 ≒ -39.5 × ln(DD%) + 241
DD10%以下を目指すと、1ptの改善に指数関数的なコストがかかります。 安全性を追求しすぎても効率が悪い ため、自分の許容リスクに合った水準を選ぶことが重要です。
MCの限界を知っておく
MCは万能ではありません。以下の点に注意が必要です。
- スプレッド変動を織り込めない — 固定スプレッドで計算するため、実際の変動コストは反映されない
- 相場レジーム変化を想定しない — 過去の統計が将来も続く前提
- 複数戦略の相互作用 — 戦略A+Bの合成MCは、A単体MCとB単体MCの単純合計にならない(相関効果がある)
MCの結果は「この統計特性が続くならば」という条件付き確率です。WFAで統計特性の安定性を確認した上で、MCで合格率を推定する — この2段階が重要です。
おわりに
プロップファームのチャレンジに投資する前に、MCで合格率を確認することが鉄則です。合格率80%未満のEAでチャレンジを繰り返すのは、期待値的に赤字になります。
- MCは 3万回のランダム試行 で「運のブレ」を定量化する
- 勝率よりEV(期待値) 、EVより 日次EV(EV×頻度) が重要
- i.i.d.仮定は楽観的 — ブロックブートストラップで3〜20pt下方修正 される
- WFAで戦略の安定性を確認 → MCで合格率を推定、の2段階で使う
WFA → MC の2段階を経て初めて「このEAでチャレンジに挑む価値がある」と判断できます。